かなえさん
秋が過ぎ、もう冬になりました。
なんだか季節が変わるごとに、かなえさんへ手紙を書いている気がします。
*
冬近し 朱色の月も浮かんでてほんとほんのり呆けていたい(東直子)
冬が来るちょっと前に、月蝕がありましたね。
出先から電車で帰ってきたら、駅で自転車にまたがったまま、振り返って空を見上げているひとがいました。
私はそのひとを見つめてしまって、月を見られなかったので、家のベランダから見るぞって急いで帰ったのです。
急いでバスに乗って、急いで坂をのぼって、急いで階段をあがって、ガチャガチャと鍵をあけて、ついにガラガラっとベランダに出たら。
曇っていて。
うーん。ちっとも見えない。
雲のむこうにきっとある、欠けていく朱色の月をぼんやりと思っていました。
*
街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る(木下利玄)
実家ではなぜか、兄がみかん好きで、私がパイナップル好きということになっています。
実際そうなんだけど、ほかの果物もけっこう同じくらい好きです。梨とか。
むかれゆく梨を見つめてしばらくは静かになりし兄といもうと(水野昌雄)
この歌、最初は意味だけみて好きになったけど、音にすると、「し」が続いて、しゃりしゃりして、その後「と」が続いて、しとしと垂れている感じがして、それもまた良いです。
詩歌では、言葉に「意味の容れ物」以上の価値がとてもたくさん与えられている気がします。
かなえさんは、どんな果物が好きですか?
また、お会いしましょう。
藤 明日香